
先生、うちの子が最近「胸が痛い」と言うんです。心臓に何かあったらと思うと心配で…。
胸には心臓や肺といった命に直結する内臓がありますね。だから、胸が痛いとなると、本人も親御さんもとても心配になりますよね…。
実は、胸の痛みの大半は治療が不要なものなのですが、ごく稀に重大な病気が隠れていることがあり注意が必要です。詳しくみていきましょう。
【ざっくりと!】
・子供が胸を痛がる場合、その原因が心臓にある割合は1%程度と非常に稀です。
・半数以上が原因不明の胸痛ですが、大半が自然に良くなります。
・その他、筋肉、骨、軟骨、肺やその周りの膜、食道、精神的なもの、などが原因となります。
・運動中の胸痛、失神を伴う、顎・左肩・左腕も一緒に痛くなる、突然死の家族歴がある、動悸(胸のドキドキ)を伴う、などの場合は特に心臓由来の胸痛の可能性を考えて詳しい検査が必要になります。
・安静時の「チクチク」する痛み、痛い場所が指させるような痛み、押すと痛い、数分以内に痛みが治まる、などの場合は、少なくとも重い病気である可能性は低いと言われています
【胸痛の原因】
ボストン小児病院を受診した3,700人の胸痛の患者さんについての調べた研究結果が2011年に発表されました。https://publications.aap.org/pediatrics/article/128/5/e1062/30977/Effectiveness-of-Screening-for-Life-Threatening?autologincheck=redirected
その結果は以下の通りです
1位:原因不明 (52%)(特発性胸痛)
2位:筋肉、骨格(骨、軟骨、関節)(36%)
3位:肺(7%)
4位:消化器(食道、胃など) 3%
5位:心臓、血管(1%)
6位:精神的なもの(1%)
なんと、胸の痛みの約半数は、検査をしても原因がはっきりわからないものだったのです!(これを、「特発性胸痛」と言います)
そして、心臓や血管が由来の痛みはわずか1%しかありませんでした。
【特発性胸痛】
前述の、原因不明の胸痛のことを、「特発性胸痛」と言います。Precordial catch症候群(プレコーディアルキャッチ症候群)と言われることもあります。
痛みの性状は「鋭い痛み」で、本人も親御さんもとても心配されることが多いです。
持続時間は通常数十秒~数分で、自然に回復します。胸の一部分に痛みは限局しており、痛い場所を指させることが多いです。また、深呼吸で痛みが悪化するという特徴があります。
各種検査で異常所見を認めず、原因がはっきりしないことが多いです。精神的なストレスが強い場合に痛みが強くでることがあります。
強い痛みのためご心配されることが大変多いのですが、体に大きな問題はなく、いずれ自然に治っていくことがほとんどです。基本的に治療や運動制限は必要なく、安心して日常生活を過ごしていただいて構いません。
【心臓や周囲の太い血管が原因の胸痛】
<心臓の筋肉が血液不足になるため生じる胸痛>
(心筋虚血(しんきんきょけつ)、虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん))
中高年の胸痛で非常に大きな問題となるのが、心臓の筋肉をめぐる血液が不足する病気です。専門用語では「虚血(きょけつ)」と言います。心臓の筋肉に血液を送る血管を冠動脈(かんどうみゃく)と言いますが、この冠動脈の血流が不十分になることが主な原因です。
小児の場合は、川崎病罹患後の冠動脈狭窄、生まれつきの冠動脈の奇形などが原因となることがあります。稀に、家族性高コレステロール血症という病気が冠動脈の狭窄を招くこともあります。
一方冠動脈に問題がなくても、大動脈弁狭窄、肥大型心筋症などでは心臓の筋肉が必要とする血液そのものが多くなったり、心臓から押し出される血液の総量が少なくなったりする影響で胸痛が生じる可能性があります。
これらの病気の特徴は、「運動時に強い胸痛が見られる」「胸の真ん中の鈍い痛み、奥の方が締め付けられるような痛み」「どこが痛いのか、ピンポイントで指し示すことが出来ない」「胸を押しても痛まない」「左首、肩、腕、顎なども同時に痛むことがある」「時に嘔吐を伴う」などが挙げられます。
激しい運動の後に突然死を引き起こすことがあるため、正確な診断と必要な場合の治療や運動制限が極めて重要になってきます。
様々な検査に異常所見が見られますが、一般に行われる検査では特に12誘導心電図で異常を検出しやすいです。
<心嚢や心臓の周りの炎症>
・心筋炎:心臓の筋肉そのものにウイルスなどが感染して生じると言われています。胸の痛みの他に、発熱、脈の不整、倦怠感~ぐったり、手足が冷たくて湿っている、などの症状がみられることがあります。心エコーでは、心臓の動きが悪い、心臓の中の空間が拡大している、などの所見が見られます。
・心外膜炎:胸の真ん中あたりが刺されるような痛みを感じます。深呼吸で痛みが増強します。心エコーでは、心臓の周りに液体が貯留する所見が見られます。
(なお、心臓の内側に細菌が感染する「感染性心内膜炎」では通常胸痛をきたすことはありません)
<不整脈>
心臓のリズムが乱れる不整脈が原因で、胸の痛みや喉の奥の違和感を感じることがあります。突然始まり、数秒で収まることが多いですが、突発的な胸痛が何度も繰り返されることあります。同時に動悸を自覚することもあります。
また、心臓が速く打ち続けるタイプの不整脈(頻脈性不整脈)が長時間続くと、心臓に負担がかかって胸が痛い・苦しいと感じることもあります。
<心臓の近くの太い血管の問題>
心臓には太い血管が多数出入りしていますが、特に大動脈という血管の壁が2層に裂ける場合には胸~背中の極めて激しい痛みを感じ、最悪の場合突然死してしまいます(大動脈解離)。
マルファン症候群などの病気が背景にあると生じやすいと言われています。
極めて激しい胸痛の場合は、ためらわずに救急車を呼び、病院を受診するようにしましょう。
<肺高血圧>
肺の血圧が上昇する病気で、特に運動時などに胸の鈍い痛み、圧迫感、呼吸困難、失神などを伴います。12誘導心電図や心エコーで診断が可能です。放置した場合生死に関わるため、診断し次第大きな病院に紹介します。
【筋肉や骨格が原因の胸痛】
<ティーツェ症候群>
胸肋関節という、肋骨の前方にある軟骨と胸骨の間が痛む病気です。その部分が赤く腫れるという特徴があります。原因ははっきりわかっていませんが、風邪をひいた後や、咳をした後に発症することがあります。
多くは数週間で自然に改善するため、痛みがひどい場合は痛み止めを使いながら自然に良くなるのを待ちます。
<肋軟骨炎>
胸肋関節(赤)や、肋軟骨接合部という肋骨と肋軟骨の間に当たるところに痛みが生じます。複数の関節にまたがって痛みが存在することもあります。押すと痛い、深呼吸で悪化する、などの特徴があります。前述のティーツェ症候群とは異なり、赤く腫れたり熱を持ったりすることはありません。
多くは数週間で自然に改善するため、痛みがひどい場合は痛み止めを使いながら自然に良くなるのを待ちます。
<肋骨すべり症候群>
胸骨に固定されていない、下部の肋骨が過大に動くことで、肋間神経という神経を圧迫することで痛みが生じます。特に体を動かしたときに痛みます。胸が締め付けられる感じや、脇腹の痛みなどを感じます。
<肋骨骨折>
物をぶつけた、転んだなどのケガが原因で骨折することもありますが、激しい咳が慢性的に続くことで骨折することもあります。肋骨が局所的に痛むのが特徴です。エコーで診断可能なこともあります。
【肺など呼吸器が原因の胸痛】
<気胸>
肺の周りの空間(胸腔(きょうくう)と言います)に、肺の中から空気が漏れ出る状態を「気胸」と言います。肺がパンクした状態と考えるとわかり易いです。思春期以降のやせ型の男性に多く見られます。突然の呼吸困難と胸痛が見られます。レントゲン写真を撮ることで診断可能です。たまった空気が多い場合は、胸の外側から針やドレーンというチューブを刺して抜いてあげる必要があります。
<縦郭気腫>
心臓や大血管などの周囲の空間を縦郭(じゅうかく)と言います。空気の通り道である気管支に傷がついて、そこから空気が漏れ出ることが原因と言われています。激しい咳、カラオケなどでの絶叫などをきっかけとして、強い胸痛が見られます。時に空気が皮膚の下まで漏れてくることがあり、皮膚を触った感触がプチプチと雪をつぶしたような感触になります(握雪感)。レントゲン写真を撮ることで診断可能です。
<肺塞栓症>
肺の中の動脈(肺動脈)に血液の塊が飛散して、血管が詰まってしまう病気です。持病のないお子さんで生じることは非常に稀ですが、例えば飛行機などで長時間座った状態でいた後に立ち上がった瞬間に発症したりすることがあります。
突然の強い胸痛、呼吸困難などが見られ、大きな病院での専門的な治療が必要です。
【食道など消化器が原因の胸痛】
<逆流性食道炎>
胃の中のものが食道に逆流することで生じる胸痛です。胃酸の分泌が多くなる食後や、胃酸の逆流が起きやすいあおむけの姿勢での胸やけや胸痛が特徴的です。焼けるような、締め付けられるような痛みを感じます。何かものを飲み込んだ時に痛みを感じることもあります。
【精神的な問題が原因の胸痛】
学校や家庭でのトラブルなど、様々な精神的ストレスが「胸の痛み」という形で表出されることがあります。検査でまったく異常がなくても、当の本人は「本当に痛い」ものです。
胸痛の原因は本当にたくさんあるんですね!
そうですね。結局原因不明のことが大変多いのですが、怖い病気を見逃さないようにするのが医師の大事な仕事です。心電図、レントゲン、心エコー、ホルター心電図などの検査を駆使していきます。胸痛で悩まれている場合は、遠慮なく受診してくださいね。