
先生!うちの子ですが、学校の心臓検診で「QT延長症候群」があると言われたんです。
普段は元気に過ごしていて大きな病気とは無縁だったのですが、一体これって何なんでしょうか?
心臓に異常を指摘されると、とても心配ですよね。
QT延長症候群の場合、普段は全く元気に過ごしていても場合によっては突然死のリスクもある病気ですので、しっかり通院が必要な病気です。
突然死!?え?うちの子死んじゃうんですか??
稀ではありますが、重症な場合は一定の割合で亡くなってしまう方もいるのは確かです。
でも、安心してください。突然死のリスクを下げるために様々な対策があります。人によっては内服や運動制限が必要になるなど生活が大きく変わってしまう場合もありますが、命が一番大事、しっかり検査と対策をしていきましょう。
【ざっくりと!】
・心電図のQ波とT波の間の間隔が広い状態を、「QT延長症候群」といいます。
・普段は無症状で元気に過ごしているが、「トルサドポアン」という不整脈を突然発症し、動悸、失神、突然死などが引き起こされることがあります。
・内服や運動制限によって、トルサドポアンの発症リスクを下げることが出来ることがあります。
・QT延長症候群にも様々なタイプがあり、遺伝子検査で分かることもあります。タイプごとにトルサドポアン発症のきっかけや治療法が異なります。
・遺伝子に変異があった場合、親兄弟など血縁者にもQT延長症候群の方がいることがあります。
【QT延長症候群とは?】
前提として、心臓の中の電気の流れを知っている必要があります。最初に以下のページをご覧ください。
正常な心臓(心臓の中の電気の流れ)のページへ
心室の筋肉の中には、右脚と左脚という電線があります。その電線を通って心室全体に電気が一気に流れますが、それと一致して心電図ではQRS波という尖った波が見られます。(Q波、R波、S波という波がひとまとまりでみられるため、まとめてQRS波と言います)
その後心室は時間をかけて収縮した後、休憩に入ります。心室の筋肉は緩やかに休憩に入っていきますが、その際心電図ではT波という緩やかな形の波が見られます。
Q波の始まりからT波の終わりまでにかかる時間のことをQT時間と言います。このQT時間が延長してしまう状態をQT延長症候群といいます。
さて、心臓は運動や感情の変化によって頻繁に収縮と拡張を繰り返すようになります(=心拍数が上昇する)。また、年齢が小さければ小さいほど、大人と比較して心拍数は高いのが一般的です。
このように心拍数が高い場合は、そうでない場合と比較して心電図はぎゅっと左右に縮まります。その結果、QT時間も短くなります。
↑運動中の心電図
単純にQT時間が長いかどうか判断するためには、心拍数ごとの基準値を決めてそこを逸脱しているかどうか判断する必要があります。しかしそれだと不便ですので、心拍数の影響を相殺してQT時間を評価するために、QTcという指標が使われます。QTcを算出するには、尖った波のR波とR波の間隔の時間を計測して、以下のような式を用います。このうち、小児から成人まで広く使えるのが下の方のフリデリシア先生が考案したQTc(F)です。
このQTcが男性で450 ms(ミリ秒)、女性で460 msを越えているとQT時間が長いと判断されます。
その場合、更に心電図波形を細かく読み込み、更に失神や家族歴の有無などの評価も加味して、QT延長症候群の「診断確実」「疑診」「可能性が低い」の3つに分類します。
QT延長症候群は、遺伝子変異が原因で生じるもの(先天性QT延長症候群)と、お薬や体内のイオンバランスの乱れなどで生じるもの(二次性QT延長症候群)に大きく分類されます。先天性QT延長症候群は10数種類見つかっていますが、有名なのはLQT1、LQT2、LQT3と言われる3つのタイプです。(LQT = Long QT syndrome、QT延長症候群のこと)
ちょっと待ってください、変な式も出てきて、難しすぎて理解が追い付きません…。
数式の中の細かいところまで理解する必要はありませんのでご安心を。ここまでは、以下のポイントだけ抑えれば大丈夫です。
・心電図の、「QT時間」という部分が長いのがQT延長症候群
・同じ人でも、心臓が速く打っている時は(=心拍数が速い場合)、心電図の左右(=時間)が狭くなり、QT時間も短くなる。どんな心拍数でもみんな同じ尺度で評価できるように「QTc」という指標が用いられている。
・QTcは主にBとFの2つの算出方法が考案されているが、小児でも広く使えるのは「QTc(F)」。これが450~460msを越えるとQT時間が長いと判断される。
・QT延長症候群は遺伝子変異が原因となっていることがあり、LQT1、LQT2、LQT3が多い。
これだけなら何とか理解できます。
【QT延長症候群だとどんなことで困る?】
QT延長症候群の人も、普段はまったく無症状で、心臓の動きも正常です。
ところが、何かのきっかけで「トルサドポアン」と言う不整脈が生じることがあります。
心室があまりに速い心拍数が拍動するため、通常激しい動悸(胸のドキドキ)を感じます。
また、血液を十分に駆出できなくなるため頭に血液が十分行き渡らなくなり、意識が遠のいたり、意識を完全に失ってしまったり(失神)、けいれんしたりします。
自然にトルサドポアンがおさまればよいのですが、持続した場合徐々に心臓が疲れてきて、心室細動という状態になります。
こうなると心臓はけいれんしているだけの状態で血液を全く押し出せていないので、ただちに適切な治療をしないと救命は不可能です。
【どんな時にトルサドポアンが起こりやすい?】
QT延長症候群のタイプによって異なります。
・LQTs1
激しい運動や水泳の際などに生じやすいです。水泳中に失神が生じると知らないうちにおぼれ死んでしまうため大変危険です。その他、驚愕、怒り、興奮などがトルサドポアンを誘発することもあります。
・LQTs2
突然の大きな音(目覚まし時計や電話のベル音、運動会のピストル音)、安静、徐脈(脈が遅い状態の時)、出産後
・LQTs3
安静時、睡眠中、起床前後
いずれのタイプでも、小学生~思春期に初めてのトルサドポアンを経験することが多いと言われています。
失神を1度でも起こした場合、何も治療をしないと1年以内に20%程度の確率で死亡すると言われています。一方で、以下に記す通りの治療をしっかりすることで死亡率を15年間で1%にまで減らすことが出来ます。
【どんな検査をする?】
<12誘導心電図>
QTcを実際に計測したり、T波の形を評価してQT延長症候群のどのタイプなのかを推測したりします。
なお、計測する日によってQTcは変動しますので、外来に来るたびに繰り返し検査を行います。(もっとも長いQTcが重視されます)
<血液検査>
血液中のカリウム、マグネシウムが少ないとQT時間が延長することがあります。
甲状腺機能の異常が影響していることもあります。
<心エコー>
肥大型心筋症など、QT時間延長の原因になるような異常がないか確認します。
<運動負荷心電図>
運動によるQTcの変化を確認します。
<ホルター心電図>
24時間装着する(自宅に持ち帰る)タイプの心電図です。QTcは日内変動が大きいため、活動中や夜間の観察をするのに優れます。
<遺伝子検査>
未成年ではQTcが480ms以上、成人ではQTcが500ms以上の場合は遺伝子検査が強く推奨されています。460~480msの場合は、状況に応じて判断します。
一般的な保険診療では、LQT1、LQT2、LQT3の遺伝子検査が可能です。
遺伝子変異が同定された場合、85%の確率でご両親のいずれかにも同じ遺伝子変異を認めます。また、きょうだいにも同じ遺伝子変異を認めることがあります。
遺伝子検査が必要な場合は、総合病院にご紹介します。
【どんな治療をする?】
QTcが470ms以上の場合は、内服が必要です。
・β遮断薬(ナドロール、プロプラノロールなど)を飲みます。QTcそのものの数値には大きな変化はありませんが、トルサドポアンや心室細動などの不整脈発生リスクをさげ、突然死を予防する働きがあります。
頭痛、立ち眩み、倦怠感などの副作用が出ることがあります。そのため、少量から開始して体を慣らしていって徐々に増量することが多いです。飲み始めの頃は多少辛くても日常生活を送れる程度であれば、飲み続けることで体が慣れてくることが多いです。
・また、LQT3の場合はメキシレチンという薬剤を追加することもあります。
・血中カリウム値が低い場合は、カリウム製剤を内服することもあります。
【飲み合わせの悪い薬】
・クラリスロマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシン:小児科領域で頻繁に使用される抗菌薬(抗生剤)です。QT時間が更に延長する可能性があるので、よほどの事情がない限り使用できません。
・抗不整脈薬の一種
・ヒドロキシジン(抗アレルギー薬)
・抗うつ薬、抗精神病薬の一部
【運動制限、通院間隔】
「2016年版学校心臓検診のガイドライン」には、以下の記載があります。
<症状またはtorsade de pointes,心室頻拍のある場合>
怠薬すると症状が出現しやすくなることを十分説明する.専門医に紹介する.怠薬の有無をチェックする.
(1) 薬物治療にて症状を予防できている場合:DまたはE禁,水泳禁(とくにLQT1) (観察間隔:必要に応じて)
(2) 薬物治療後も症状がある場合:CまたはD,水泳禁(とくにLQT1) (観察間隔:必要に応じて)
<症状のない場合>
(1) 安静時のQTc延長が軽度で,家族歴がなく,運動負荷でQTcが延長しない場合: E禁またはE可,水泳は監視下(とくにLQT1) (観察間隔:6ヵ月~1年)
(2) 安静時のQTc延長が著明な場合: E禁,水泳禁(とくにLQT1) (観察間隔:必要に応じて)
(3) 症状またはTdP・心室頻拍の家族歴ある場合: D,E禁またはE可,水泳禁(とくにLQT1) (観察間隔:必要に応じて)
(4) 運動負荷でQTcが延長する場合:DまたはE禁,水泳禁(とくにLQT1) (観察間隔:必要に応じて)
*E禁、E可などの用語については、運動制限(学校生活管理指導表)のページを参照ください。(準備中)
QTcの長さや自覚症状に応じて異なりますが、運動制限が必要になることもあります。スポーツに真剣に取り組んできた人にとっては大変つらいことですが、運動制限を指示された場合、命を守るためにしっかり制限を守りましょう。
【周りの人はどんなことに気を付けると良いの?】
・薬をしっかり飲むように促しましょう。普段全く症状がなく、徐々に親から自立する年齢の子が多いため、薬の飲み忘れや、怠薬が見られがちです。内服が必要と判断された場合にしっかり飲むことで突然死を防ぐことが出来るため、毎日しっかり内服をしましょう。
・ご家族は心肺蘇生法をしっかり身に着けましょう。トルサドポアンから心室細動に移行した場合、そばにいる人がただちに救命救急処置を行う以外に命を助ける方法はありません。。これを機会に講習会を受講しましょう。
重症度やタイプによって対応が変わってくるのですね。
実際には、QT延長症候群なのかそれとも正常なのか、判断がつきづらいケースが良くあります。開業医レベルではそのような患者さんを診ていくことが多いですが(はっきり診断がつく重症なタイプは大きな総合病院にご紹介することもあります)、重症な場合は突然死につながりうる病気だということをよく理解して、医師の指示に従うようにしてください。
【参考にしたガイドライン】
遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/12/JCS2017_aonuma_h.pdf
小児不整脈の診断・治療ガイドライン
https://jspccs.jp/wp-content/uploads/guideline_cure.pdf
2016年版学校心臓検診のガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2016_sumitomo_h.pdf
2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン
http://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf