
目次
- 【ざっくりと!】
- 【QT延長は、心臓の形が伸びた病気ではありません】
- 【QT時間とQTcは何が違う?】
- 【QTcは1回の心電図だけで決まるわけではありません】
- 【小学1年生では言われなかったのに、中学生でQT延長と言われることがあります】
- 【学校心臓検診でQT延長と言われたら】
- 【QT延長症候群だと何が問題になる?】
- 【QT延長症候群の症状】
- 【先天性QT延長症候群と後天性QT延長】
- 【先天性QT延長症候群のタイプと誘因】
- 【QTを延ばす可能性のある薬に注意】
- 【どんな検査をする?】
- 【どんな治療をする?】
- 【運動制限は必要?】
- 【日常生活で注意すること】
- 【周りの人はどんなことに気を付けるとよい?】
- 【受診の目安】
- 【よくある質問】
- 【当院で相談できること】
- 【関連記事】

先生!うちの子ですが、中学校の学校心臓検診で「QT延長」と言われたんです。
小学1年生の心臓検診では何も言われなかったのですが、今になって心臓のどこかが伸びてしまったんでしょうか?

心臓に問題があると言われると、心配になりますよね。
QT延長の「延長」は、心臓の形や血管が物理的に伸びている、という意味ではありません。
延びているのは、心電図で見た時の「時間」です。
心電図には、心臓の電気の動きを表すP波、Q波、R波、S波、T波という波があります。
そのうち、Q波の始まりからT波の終わりまでの時間をQT時間と言います。
そして、QT時間が通常より長い状態を、QT延長と言います。
また、小学1年生の学校心臓検診では指摘されていなくても、中学生になってからQT延長が見つかることがあります。
普段は元気に過ごしていても、突然非常に重い不整脈の発作が起こる可能性があるので注意が必要です。
突然死を避ける日常生活の工夫、運動制限、お薬での治療、遺伝子検査などが必要になることがあります。
ここでは、学校心臓検診でQT延長・QT延長症候群を指摘されたお子さんについて、保護者の方向けに丁寧に説明しますね。
(あわせて、正常な心臓(心臓の中の電気の流れ)を読むと、より理解しやすくなります。)
【ざっくりと!】
- ・QT延長とは、QT時間(心電図のQ波の始まりからT波の終わりまでの時間)が延びた状態です。
- ・QT時間は心拍数によって変わるため、実際には心拍数で補正したQTcという項目を見て判断します。
- ・小学1年生では指摘されていなくても、中学生の学校心臓検診でQT延長が見つかることがあります。
- ・普段は元気に過ごしていても、まれに突然危険な不整脈が起こり、強い動悸(胸のドキドキ)を感じたり、失神やけいれんのように見える発作につながったり、最悪の場合は命に関わる事態に陥ることがあります。
- ・診断や危険性は1回の心電図だけで決めつけず、症状、家族歴、心電図の再検査、ホルター心電図、運動負荷心電図などを合わせて判断します。
- ・必要に応じて、薬での治療、運動制限、避けた方がよい薬の確認などを行い、危険な不整脈のリスクを下げます。
- ・クラリスロマイシンなど、QTをさらに延ばす可能性のある薬があります。薬を処方される時は、QT延長を指摘されていることを必ず伝えましょう。
【QT延長は、心臓の形が伸びた病気ではありません】
「QT延長」と聞くと、心臓の中のどこかが伸びてしまったように感じるかもしれません。
しかし、QT延長の「延長」は、心臓の形や血管の長さではなく、心電図上の時間を表しています。
心臓は、微弱な電気が流れることによって収縮と弛緩を繰り返します。その電気の流れを外側から観察したものが心電図です。
(心臓の中の電気の流れについては、先にこちらを読むと理解が深まります)
心電図では、心室の筋肉に電気が流れる時に、QRS波という尖った波が見られます。
その後、心室の筋肉は、次の拍動に備えて電気的に回復していきます。この回復の過程で、心電図にはT波という緩やかな波が見られます。
Q波の始まりからT波の終わりまでにかかる時間を、QT時間と言います。
このQT時間が長い状態を、QT延長と言います。


QT時間は、心臓が次の拍動に備えて電気的に回復するまでの時間です。
この回復に時間がかかっているところに、次の電気刺激が重なると、まれに心臓のリズムが大きく乱れることがあります。
その代表が、トルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes:TdP)と呼ばれる非常に危険な不整脈です。
【QT時間とQTcは何が違う?】
QT延長を正しく評価するために、医療従事者は「QTc」という指標を最も重視しています。
QT時間は、心電図上で実際に測った「Q波の始まりからT波の終わりまでの時間」です。
ただし、このQT時間は心拍数によって大きく変動します。
たとえば、運動した時や緊張した時のように心拍数が速いと、心電図全体が左右にぎゅっと縮まります。そのため、生のQT時間も短く見えます。
反対に、心拍数が遅い時は、心電図全体が横に広がるため、QT時間も長くなります。

↑ 運動中など、心拍数が速い時の心電図のイメージです。
つまり、QT時間そのものだけを見ても、本当に長いのかどうかは判断しにくいのです。
そこで使うのが、QTcです。
QTcは、心拍数の影響を補正したQT時間です。
「心拍数が速い時でも遅い時でも、できるだけ同じものさしでQTを評価するための値」と考えると分かりやすいです。
普段、医療者が「QTが長いかどうか」を判断する時には、生のQT時間だけではなく、主にこのQTcを見ています。
QTcの計算方法にはいくつか種類があります。代表的なものに、Bazett法によるQTc(B)や、Fridericia法によるQTc(F)があります。

保護者の方が、この式を覚える必要はありません。
大切なのは、QT延長の評価では、QT時間そのものではなく、心拍数で補正したQTcを見るということです。

ちょっと待ってください、変な式も出てきて、難しすぎて理解が追いつきません……。

数式の細かいところまで理解する必要はありません。
ここまでで押さえていただきたいポイントは、以下の2つです。
- ①QT延長とは、心臓の形が伸びた病気ではなく、心電図上のQT時間が長い状態です。
- ②QT時間は心拍数によって変わるため、医療者は主にQTcという補正値を見て評価します。

これだけなら何とか理解できます。
【QTcは1回の心電図だけで決まるわけではありません】
QTcは、1回測ったら一生変わらない固定の数字ではありません。
心拍数、緊張、安静、睡眠不足、体調、発熱、薬、脱水、下痢や嘔吐、血液中のカリウムやマグネシウムなどによって、見え方が変わることがあります。
そのため、学校心臓検診でQT延長を指摘されても、医療機関で再検査すると正常範囲と判断されることがあります。
逆に、普段の心電図では軽く見えても、運動後や夜間にQTcが長くなることがあります。
QT延長症候群を疑う場合は、1回の心電図だけで決めつけず、症状、家族歴、12誘導心電図の再検査、ホルター心電図、運動負荷心電図などを合わせて評価します。
【小学1年生では言われなかったのに、中学生でQT延長と言われることがあります】
保護者の方から、よくこのような質問をいただきます。
「小学1年生の学校心臓検診では何も言われなかったのに、中学校の心臓検診で急にQT延長と言われました。今になって心臓が悪くなったのでしょうか?」
これは、とても自然な疑問です。
結論から言うと、小学1年生の時に指摘されていなくても、中学生・高校生になってからQT延長を指摘されることがあります。
QTcは、前述の通り心拍数、自律神経、緊張、体調、睡眠不足、薬、電解質のバランスなどによって見え方が変わります。
成長や思春期に伴って、自律神経のバランスが変化することでQT延長が目立ってくることがあります。そのため、小学校低学年の時には目立たなかったQT延長が、中学校や高校の学校心臓検診で初めて指摘された、ということはよく経験します。
これは、「急に心臓が悪くなった」という意味ではありません。
もともとQTが長くなりやすい体質があり、成長、心拍数、思春期、測定条件などによって、中学生・高校生になってから心電図上で目立ってきた、と考えると分かりやすいです。
一方で、薬剤、強い下痢や嘔吐、脱水、電解質異常、摂食障害などによって、後からQTが延長して見えることもあります。
そのため、中学生や高校生でQT延長を指摘された場合には、以前の学校心臓検診の結果だけで判断するのではなく、現在の心電図、QTc、症状、家族歴、薬の使用、体調、必要に応じてホルター心電図や運動負荷心電図を確認します。
それらの結果、QTが間違いなく延長していると判断された場合に、「QT延長症候群」という病気であると診断されます。
【学校心臓検診でQT延長と言われたら】
学校心臓検診でQT延長を指摘された場合、まずは落ち着いて医療機関で確認します。
QT延長を指摘されたからといって、すぐに危険な状態というわけではありません。
学校心臓検診は、症状がない子どもの中から、念のため詳しい確認が必要な心電図異常を見つけるための検査です。
受診時には、主に以下を確認します。
- 本当にQT時間が長いか
- QTcがどの程度長いか
- T波の形に特徴があるか
- 失神、けいれんのような発作、動悸、胸痛がないか
- 運動中、水泳中、驚いた時、寝ている時などに症状が出ていないか
- 家族に若年突然死、原因不明の失神、QT延長症候群、不整脈を指摘された方がいないか
- QTを延ばす可能性のある薬を使っていないか
- 強い下痢・嘔吐、脱水、摂食障害、電解質異常などがないか
症状がなく、QTcも軽度で、家族歴もなく、再検査で問題がない場合には、経過観察になることがあります。
一方で、QTcが明らかに長い場合、失神の既往がある場合、家族歴がある場合、T波に特徴がある場合は、より詳しい評価を行います。
【QT延長症候群だと何が問題になる?】
QT延長症候群があっても、普段はまったく無症状で、元気に生活していることがあります。
ところが、何かのきっかけで、トルサード・ド・ポアンツという不整脈が起こることがあります。

このギザギザで振幅に変化がある部分がトルサード・ド・ポアンツの心電図です。
トルサード・ド・ポアンツでは、心室が非常に速く不規則に興奮します。
この時、本人は強い動悸を感じることがあります。
血液を十分に送り出せなくなると、脳に十分な血液が届かず、意識が遠のいたり、完全に意識を失ったり、けいれんのように見えたりすることがあります。
自然にトルサード・ド・ポアンツがおさまれば回復しますが、長く続くと、心室細動というさらに危険な不整脈に移行することがあります。

心室細動になると、心臓はけいれんしているような状態になり、血液をうまく送り出せなくなります。
そのため、ただちに心肺蘇生や除細動などの救命処置が必要になります。対応が遅れると救命できないこともあります。
このように書くと非常に怖く感じると思います。
ただし、QT延長を指摘されたすべてのお子さんが、このような状態になるわけではありません。
大切なのは、リスクが高いタイプかどうかを確認し、必要な対策を取ることです。
【QT延長症候群の症状】
QT延長症候群では、全く症状がないことも多いです。
一方で、以下のような症状が時々見られることがあります。
- 突然の失神
- けいれんのように見える発作
- 強い動悸
- 胸の違和感
- 運動中や水泳中に倒れる
- 驚いた時や大きな音で倒れる
- 寝ている時や安静時の異常な発作
特に重要なのは、運動中や水泳中の失神、驚いた時の失神、寝ている時の発作、家族歴を伴う失神です。
失神やけいれんのように見える発作があっても、必ずしもQT延長症候群とは限りません。
てんかん、迷走神経反射、起立性調節障害、不整脈など、さまざまな原因があります。
ただし、QT延長症候群による不整脈発作が、けいれんのように見えることがあります。
そのため、「けいれん」と言われた場合でも、発作の状況によっては心電図を確認することがあります。
【先天性QT延長症候群と後天性QT延長】
QT延長には、大きく分けて先天性と後天性があります。
先天性とは、「生まれつきの」という意味です。(生まれつき体質がある人が、思春期になって心電図の異常を指摘されることがあります)
後天性とは、「生まれた後に生じた問題による」という意味です。
| 種類 | 原因 | 考え方 |
|---|---|---|
| 先天性QT延長症候群 | 生まれつきの体質や遺伝的な背景 | 症状、心電図、家族歴、遺伝子検査などをもとに評価します。 |
| 後天性QT延長 | 薬剤、電解質異常、徐脈、摂食障害、強い下痢・嘔吐など | 原因を取り除くことで改善することがあります。 |
【先天性QT延長症候群のタイプと誘因】
生まれつき、QT時間が延長しやすい体質とは、具体的にどのようなものでしょうか。
体の細胞には「遺伝子」という「体の設計図」があり、体中のあらゆる活動を制御しています。
その設計図に書かれている文字に通常とは違う文字が紛れ込んでいる場合などを、「変異」があると言います。
先天性QT延長症候群には、この遺伝子の変異が見られます。そして、この変異はいくつかのタイプに分けられます(それぞれのタイプを「遺伝型」と言います)
代表的なのは、LQT1、LQT2、LQT3です。どのタイプかによって、注意すべき状況や治療方法が変わってきます。
(LQT:long QTという意味です)
| タイプ | 不整脈が起こりやすい場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| LQT1 | 運動、水泳、マラソンなど | 運動中、とくに水泳中の症状に注意します。 |
| LQT2 | 突然の音、驚き、情動ストレスなど | 目覚まし時計、電話音、運動会のピストル音などが誘因になることがあります。 |
| LQT3 | 安静時、睡眠時など | 寝ている時や安静時の症状に注意します。 |
ただし、遺伝型だけで全てが決まるわけではありません。
同じQT延長症候群でも、QTcの長さ、症状の有無、家族歴、薬の内服状況、年齢、性別などによって、注意点や運動の考え方が変わります。
また、遺伝子検査をしても原因が見つからないQT延長症候群もあります。遺伝子が見つからないからといって、QT延長症候群ではないと断定できるわけではありません。
【QTを延ばす可能性のある薬に注意】
QT延長症候群、またはQT延長を疑われている場合、薬の選び方に注意が必要になることがあります。
薬によっては、QT時間をさらに延ばし、トルサード・ド・ポアンツなどの危険な不整脈を起こしやすくすることがあります。
特に注意が必要なのは、クラリスロマイシンなどの一部の抗菌薬です。クラリスロマイシンは小児科でも処方されることがある薬ですが、QT延長症候群がある方では、原則として避ける、または他の薬を検討する必要があります。
QT延長症候群がある、またはQT延長を指摘されている場合は、薬を処方される時に、必ず「QT延長を指摘されています」「QT延長症候群の疑いがあります」と医師・薬剤師に伝えてください。
QT延長症候群で注意が必要な薬の例
以下は代表例です。ここに載っていない薬でも注意が必要なことがあります。実際に使用してよいかどうかは、病状、QTc、併用薬、電解質異常の有無などを含めて判断します。
| 薬の種類 | 代表的な薬剤名 | 注意点 |
|---|---|---|
| マクロライド系抗菌薬 | クラリスロマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシンなど | 小児科で処方されることがあります。特にクラリスロマイシンは、QT延長症候群では原則として避ける、または代替薬を検討します。 |
| ニューキノロン系抗菌薬 | レボフロキサシン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシンなど | 小児では使用頻度は高くありませんが、処方される場合はQT延長の情報を必ず伝えてください。 |
| 抗真菌薬 | フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾールなど | 感染症の種類によって必要になることがあります。自己判断せず、主治医・薬剤師と確認します。 |
| 制吐薬・胃腸薬 | ドンペリドン、オンダンセトロンなど | 吐き気止めとして使われる薬の中にもQTを延ばす可能性があるものがあります。 |
| 抗ヒスタミン薬 | ジフェンヒドラミン、一部の旧世代抗ヒスタミン薬など | かゆみ止め、鼻炎薬、睡眠補助薬などに含まれることがあります。市販薬にも注意が必要です。 |
| 抗不整脈薬 | キニジン、ジソピラミド、プロカインアミド、シベンゾリン、フレカイニド、ソタロール、アミオダロン、ベプリジルなど | 心臓の薬です。専門的な判断が必要です。 |
| 向精神薬 | ハロペリドール、クロルプロマジン、スルトプリド、クエチアピン、リスペリドン、エスシタロプラム、アミトリプチリン、クロミプラミンなど | 精神科・心療内科・小児精神科などで処方されることがあります。QT延長がある場合は必ず事前に伝えてください。 |
| その他 | ヒドロキシクロロキン、クロロキン、プロブコール、一部の抗がん剤など | 特殊な病気の治療で使われる薬にも注意が必要なものがあります。 |
クラリスロマイシンについて
クラリスロマイシンは、呼吸器感染症、副鼻腔炎、中耳炎、マイコプラズマ感染症などで処方されることがある抗菌薬です。
しかし、QT延長症候群がある場合、クラリスロマイシンによってQT時間がさらに延び、危険な不整脈のリスクが高まる可能性があります。
そのため、QT延長症候群がある方、またはQT延長を疑われている方では、クラリスロマイシンは原則として避け、必要に応じて別の抗菌薬を検討します。
他の医療機関で抗菌薬を処方される時には、必ず「QT延長を指摘されています」「クラリスロマイシンなどQTを延ばす薬に注意が必要と言われています」と伝えてください。
市販薬・漢方薬・サプリメントにも注意しましょう
QT延長に注意が必要な薬は、処方薬だけではありません。
市販のかぜ薬、鼻炎薬、酔い止め、睡眠補助薬、漢方薬、サプリメントの中にも、体質や組み合わせによって注意が必要なものがあります。
特に、以下のような場合は注意してください。
- 新しい薬を飲み始める時
- 複数の医療機関から薬をもらっている時
- 市販薬を追加で使う時
- 嘔吐・下痢・脱水がある時
- 食事が十分に取れていない時
- 薬を飲み始めてから動悸、ふらつき、失神のような症状が出た時
薬の自己判断での中止や変更は避けてください。必要な薬もあります。主治医や薬剤師と相談しながら判断します。
QT延長に注意が必要な薬は、新しい情報により変更されることがあります。詳しい薬剤情報については、医療者向けデータベースであるCredibleMedsも参考になります。
→ CredibleMeds(英語のサイトになります)
【どんな検査をする?】
QT延長を指摘された場合、以下のような検査を組み合わせて評価します。
| 検査 | 分かること | 目的 |
|---|---|---|
| 12誘導心電図 | QTc、T波の形、他の心電図異常 | QT延長の確認 |
| 心エコー | 心臓の形や動き | 形や動きに問題がないか確認 |
| ホルター心電図 | 日常生活中のQTc変化、不整脈 | 普段のリズムを確認 |
| 運動負荷心電図 | 運動中・運動後のQTc変化 | QT延長の評価、運動制限の判断 |
| 血液検査 | カリウム、マグネシウム、カルシウムなど | 後天性QT延長の原因を確認 |
| 遺伝学的検査 | QT延長症候群関連遺伝子の病的変異 | 診断、治療方針、家族評価の参考 |
すべてのお子さんにすべての検査を行うわけではありません。QTcの長さ、症状、家族歴、学校心臓検診の結果などを見て、必要な検査を選びます。
12誘導心電図
QT時間、QTc、T波の形を確認します。
QT延長症候群では、QTcが長いだけでなく、T波の形に特徴が見られることがあります。
血液検査
血液中のカリウム、マグネシウム、カルシウムなどを確認します。
これらのバランスが乱れると、QT時間が長くなることがあります。
心エコー
心臓の形や動きに異常がないかを確認します。
QT延長以外の心臓病が隠れていないかを確認する目的で行います。
ホルター心電図
24時間心電図を記録し、日常生活の中での心拍の変化や不整脈を確認します。
症状がある場合は、症状が出た時刻をメモしておくと、心電図との対応を確認しやすくなります。
運動負荷心電図
運動中や運動後にQTcがどのように変化するかを確認します。
QT延長症候群の評価では、安静時心電図だけでなく、運動後の回復期のQTcが参考になることがあります。
遺伝学的検査
QT延長症候群が強く疑われる場合や、診断がついた場合には、遺伝学的検査を検討することがあります。
遺伝学的検査は、診断の補助、遺伝型に応じた治療や生活指導、家族の検査を考えるうえで役立つことがあります。
ただし、遺伝学的検査で異常が見つからないQT延長症候群もあります。また、検査結果の解釈には専門的な判断が必要です。
遺伝学的検査が必要と判断した場合は、専門施設へご紹介します。
【どんな治療をする?】
QT延長症候群の治療は、QTcの長さ、症状、失神の有無、家族歴、遺伝型、年齢などを総合して判断します。
| 治療・対策 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 生活指導 | 誘因を避ける、脱水や電解質異常を防ぐ、薬に注意する | 危険な不整脈の誘因を減らす |
| β遮断薬 | 心臓への交感神経刺激を抑える薬 | 不整脈発作を予防する |
| 遺伝型に応じた薬 | LQT3などでメキシレチンを検討することがある | QT短縮や心イベント予防を目指す |
| カリウム補充 | 低カリウム血症がある場合に検討 | QT延長の悪化要因を補正する |
| ペースメーカー・ICD | 重症例で検討 | 徐脈や致死性不整脈への対応 |
| 左心臓交感神経節切除術 | 専門施設で検討される治療 | 薬で十分に抑えられない重症例への対応 |
学校心臓検診で見つかった、無症状でQT延長が軽度のお子さんでは、すぐに薬が必要とは限りません。
一方で、失神の既往がある場合、QTcが明らかに長い場合、家族歴がある場合、遺伝型が分かっている場合には、薬物治療を検討します。
治療が必要かどうかは、必ず専門的な評価に基づいて判断します。
【運動制限は必要?】
QT延長症候群で保護者の方が特に心配されるのが、「運動してよいのか」という点です。
結論から言うと、運動制限は一律ではありません。
QTcの長さ、症状の有無、失神の既往、遺伝型、治療状況、運動の種類、学校生活管理指導表の内容を合わせて判断します。
| 状況 | 運動の考え方 |
|---|---|
| QT延長が軽度で、症状も家族歴もない | 検査結果を見ながら、必要以上の運動制限を避けることがあります。 |
| 運動中に失神したことがある | 詳しい評価が終わるまで、激しい運動は控えます。 |
| LQT1が疑われる、または診断されている | 水泳、マラソン、激しい運動に注意が必要です。 |
| LQT2が疑われる、または診断されている | 突然の音刺激や強い驚きに注意することがあります。 |
| 治療中・リスクが高い | 学校生活管理指導表を用いて、運動の範囲を個別に決めます。 |
安全に過ごすために運動制限が必要になることはありますが、必要以上の運動制限も避けるべきです。
どの運動が可能か、部活動や水泳をどう考えるかは、検査結果とリスクを確認しながら、本人・保護者・学校・医療者で相談して決めていきます。
水泳は、トルサード・ド・ポアンツを誘発する可能性があるだけでなく、そのまま溺れてしまう可能性があることから、特に注意が必要です。リスクが低いと判断された場合であっても、「水泳は必ず監視下で」という約束が必要なこともあります。
(学校によっては、目立つ色の帽子を推奨するところもあるようです。命を守るために大変有効な対策と考えます)
学校生活管理指導表について詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
→ 運動制限(学校生活管理指導表)
【日常生活で注意すること】
QT延長症候群、またはQT延長を疑われている場合、日常生活では以下の点に注意します。
- 処方薬や市販薬を使う時は、QT延長を指摘されていることを伝える
- 脱水にならないようにする
- 強い嘔吐や下痢がある時は早めに相談する
- 無理なダイエットや摂食障害を放置しない
- 運動や水泳については、主治医の指示に従う
- 失神、けいれんのような発作、強い動悸があれば受診する
- 家族に突然死や原因不明の失神がある場合は伝える
- 気を失って転落したら危険な高所は可能な限り避ける
QT延長症候群では、薬、脱水、電解質異常、強いストレス、睡眠中や運動中の状況などが関係することがあります。
「何をどこまで避けるべきか」は、お子さんごとに異なります。必要以上に怖がりすぎる必要はありませんが、主治医と情報を共有しておくことが大切です。
【周りの人はどんなことに気を付けるとよい?】
QT延長症候群では、お子さん本人だけでなく、周囲の大人が病気の特徴を理解しておくことも大切です。
- 内服が必要な場合は、飲み忘れがないように見守る
- 学校や園に、必要な範囲で情報を共有する
- 運動制限や水泳の可否について、学校生活管理指導表をもとに確認する
- 失神やけいれんのような発作が起きた時の対応を確認しておく
- AEDの場所を知っておく
- 家族が心肺蘇生法を学んでおく
普段は症状がなく元気に見えるため、内服や注意点が軽く見られてしまうことがあります。
しかし、治療や生活上の注意が必要と判断された場合は、継続することが大切です。
心肺蘇生法やAEDの使い方については、地域の救命講習を受けておくと安心です。
→ 山形市 応急手当講習
【受診の目安】
以下のような場合は、医療機関で相談してください。
- 学校心臓検診でQT延長を指摘された
- 運動中や水泳中に失神した
- 突然倒れた
- けいれんのように見える発作があった
- 強い動悸をくり返す
- 寝ている時や安静時に異常な発作がある
- 家族に若年突然死、QT延長症候群、原因不明の失神がある
- QTを延ばす可能性のある薬を使う必要がある
- 強い嘔吐や下痢、脱水がある
特に、運動中の失神、水泳中の失神、けいれんのような発作、意識が戻りにくい発作がある場合は、早めに受診してください。
【よくある質問】
QT延長とは、心臓のどこかが伸びているという意味ですか?
違います。QT延長の「延長」は、心臓の形や血管が伸びているという意味ではありません。
心電図で見た時に、Q波の始まりからT波の終わりまでの時間が長くなる、という意味です。
QT時間とQTcは何が違いますか?
心拍数の影響を排除して、より正確に評価できるのがQTcです。
QT時間は、心電図上で実際に測ったQ波からT波までの時間です。
ただし、QT時間は心拍数によって変わります。心拍数が速いと短くなり、心拍数が遅いと長くなりやすくなります。
QTcは、心拍数の影響を補正したQT時間です。医療者がQT延長を判断する時には、生のQT時間だけではなく、主にQTcを見ています。
小学1年生では異常なしだったのに、中学生でQT延長と言われました。なぜですか?
成長や思春期の自律神経の変化が影響しています。
体質的なQT延長症候群(先天性QT延長症候群)であっても、小学1年生の心電図では異常を指摘されないこともよくあります。
現在の心電図、症状、家族歴、必要な検査を合わせて、QT延長症候群として注意が必要かを判断します。
QT延長と言われました。すぐに危険ですか?
すぐに危険とは限りません。
学校心臓検診でQT延長を指摘されても、再検査で正常範囲と判断されることがあります。一方で、QTcが明らかに長い場合や、失神、家族歴がある場合は詳しく確認します。
QT延長症候群は病気ですか?
はい、病気の1種です。
普段は全く元気に過ごしているとしても、心臓の電気的な回復に時間がかかる異常は生じています。そのような状態の心臓は、まれに突然の危険な不整脈が起こることがあるため注意が必要です。
子どものQT延長は自然に治りますか?
一時的にQT時間が長く見えただけで、その後は正常範囲で経過する人もいます。
一方で、先天性QT延長症候群では、QTが長くなりやすい体質が続くことがあります。1回の心電図だけで判断せず、必要に応じて経過を見ます。
QT延長症候群で運動制限は必要ですか?
必要になることがあります。ただし、一律に全員が強い運動制限になるわけではありません。
QTcの長さ、失神の有無、遺伝型、治療状況、学校生活管理指導表をもとに、運動の範囲を個別に判断します。
QT延長症候群では水泳をしてはいけませんか?
水泳の可否は、遺伝型、症状、治療状況、検査結果によって判断します。
特にLQT1では、水泳中の症状に注意が必要になることがあります。自己判断で再開せず、主治医と相談してください。
最も制限が緩い場合であっても「水泳は大人の監視下で」とすることが多いです。
QT延長症候群で避けた方がよい薬はありますか?
あります。特に、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、ドンペリドンやオンダンセトロンなどの制吐薬、一部の抗不整脈薬、向精神薬、抗ヒスタミン薬などには注意が必要です。
なかでもクラリスロマイシンは小児科で処方されることがある薬ですが、QT延長症候群がある場合には原則として避け、代替薬を検討します。
薬を処方される時や市販薬を使う時は、「QT延長を指摘されています」と医師・薬剤師に伝えてください。薬の自己判断での中止や変更は避け、必ず医療者と相談してください。
けいれんと言われました。心臓の検査も必要ですか?
医師が必要と判断した場合は心臓の検査を行います。
けいれんの原因はさまざまです。QT延長症候群による不整脈発作が、けいれんのように見えることがあります。運動中、驚いた時、寝ている時の発作、家族歴がある場合は、心電図を確認することがあります。
家族も検査した方がよいですか?
QT延長症候群が疑われる場合や診断された場合には、家族の心電図や遺伝学的検査を検討することがあります。
特に、家族に若年突然死、原因不明の失神、QT延長症候群を指摘された方がいる場合は、必ず伝えてください。
QT延長症候群は薬で治りますか?
現在の医学では、QTが延びやすい体質そのものを完全になくすことはできません。
しかし、お薬や生活の工夫で、危険な不整脈を起こしにくくコントロールしていくことができます。治療の必要性や内容は、症状、QTc、遺伝型、家族歴などをもとに判断します。
【当院で相談できること】

重症度やタイプによって対応が変わってくるのですね。

実際には、QT延長症候群なのか、それとも正常範囲なのか、判断がつきづらいケースもあります。
当院では、学校心臓検診でQT延長を指摘されたお子さんについて、診察、12誘導心電図、心エコー、必要に応じてホルター心電図を行い、専門施設での評価が必要かどうかを判断します。
はっきり診断がつく重症なタイプや、遺伝学的検査・専門的治療が必要と考えられる場合には、総合病院へご紹介します。
怖がりすぎる必要はありませんが、重症な場合には命に関わることがある病気です。医師の指示に従い、必要な検査や通院を続けることが大切です。
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この記事を書いた人:
天童ハート小児科 院長 高橋辰徳
小児科医/小児循環器診療
この記事は、保護者の方向けに、学校心臓検診や小児循環器外来でよくあるご相談をもとに作成しています。
最終更新日:2026年7月10日
参考:
2025年JCS/JSPCCSガイドラインフォーカスアップデート版 学校心臓検診






